燃費や加速など、乾いた路面では軽い車の方が何かと都合がいいものです。例えば大人数でのドライブ、または大量の荷物を載せるシチュエーションなどで、軽量性の利を明らかに感じることができます。
この「雪道と車重」の関係は僕が個人的に好きなテーマなので、北海道で走り込んだ経験と、JAFの実証実験を元にして、丁寧にお話していきたいと思います。
◆ 本題の前におさらい
結論からいうと、単純に重い/軽いで適正を判断した場合、雪道でも軽い車のほうが有利です。しかし現実には、「4WD」「衝突安全性」「居住性」「積載性」などが選択条件になりますから、重量級モデルばかりが候補にあがると思います。
なので、本記事では重い車の需要を飲み込んだうえで、 あえて重い車の不利な点フォーカスしていきます。詳しい話は後述するとして、まずは今回の前提条件について触れておきましょう。
- 車体を単純な重量物として考え、細かい構造については度外視
- 雪道走行を「走る」「曲がる」「止まる」に分割
- 安全性を重視し、「曲がる」「止まる」に注目
前回の「雪道と駆動方式」の記事と同じく、雪道走行を3パートに分割し、シンプルに考えていきます。それでは、まず「走る」性能について見ていきたいと思います。
① 直進走行性能(走る)
「走る」については、「発進」「直進安定」「坂道」という3つのシチュエーションを分析し、直進走行性能について吟味していきます。
“発進”は重いほうが有利
発進時は路面に対して“いかに効果的に動力を伝えるか?”が重要です。タイヤが路面をしっかりグリップできなければ、いくらパワーがあろうがスリップは免れません。このグリップ力を左右するのが、車重なのです。
ランドクルーザーとプリウスのイメージ画像を用意しました。現実には異なりますが、駆動方式とタイヤを同じものと仮定します。
このとき同程度のパワーを発揮すると、プリウスより1t以上重いランクルのほうがタイヤが強くグリップできるので、エンジンからのパワーを伝えやすくなるということです。プリウスの場合、空転してパワーが逃げてしまうかもしれません。
アイスバーンで軽自動車がスリップしている光景をよく見ますが、車重が軽くてグリップできないことが最大の要因といえるでしょう。
“安定性”も重いほうが有利
雪道は発進だけでなく、直進時も注意が必要。綺麗に雪だけが積もっていれば問題ありませんが、現実には必ず氷塊や轍(わだち)が発生します。また、アイスバーンの上ではちょっとした横風も脅威になるため、常に危険が潜んでいるのです。
こうした場合、車体が重いほうが圧倒的に安定します。理由は先ほど触れたように、路面を強くグリップできるためです。
“坂道”では軽いほうが有利
車体が重いほうが路面をグリップできる、ということですが坂道の走行に関しては少し事情が変わってきます。理由は単純で、車重があると強くグリップできる反面、下り側へかかる力も大きくなるためです。
上り坂でアルファードとアクアがそれぞれ発進するイメージ画像で、矢印は後ろへかかる力を表しています。サイドブレーキを戻した途端、どちらが後ろに下がりやすいかは説明するまでもないでしょう。
この2台はあくまでも車重で比較しているだけなので、実際には4WDの設定がないアクアのほうが不利です。
② 旋回性能(曲がる)
これは僕の個人的な意見ですが、冬シーズンの運転は「走る」よりも「曲がる」「止まる」といった操作に重きを置くべきだと考えています。発進時のスリップはせいぜい渋滞を招く程度ですが、コーナーやブレーキポイントでのスリップは人命に係わりますから。
先に言ってしまうと、この2点は軽いほうが圧倒的に有利です。
コーナーでは軽いほうが有利
峠道を同じスピードで旋回するとき、重い車と軽い車でどちらが遠心力が加わるか?当然ながら、答えは重い車です。力が加わるということはそれだけ操作が困難になり、アンダーステア(大まわり)になります。
これについてはJAFが興味深いテストを公開しました。ブレーキ性能と旋回性能について車重ごとに比較した内容で、旋回テストは2分15秒あたりから始まります。
このテストは積載量の変化による比較ですから、本書とは微妙にフォーカスしている点が異なりますが、重量と旋回距離の関係はよくわかりますよね。
※ランクルの横転は意外と多い?
北海道では雪が降り始めた途端に横転事故が多発しますが、なかでも目立つのが軽自動車です。1.0tを切るほど軽い軽自動車ですが、これは車重というよりも足回りの弱さと、高い重心が要因とされています。
そして意外なことに、ランクルなどの大型SUVもこの手の事故がよく見られます。クロカン車は足回りが強い一方、2.0tを超える車重で重心も高いので、旋回しきれずに横転するケースがけっこうあるのです。
勘違いされがちですが、クロカン車は岩肌や泥道などの走破性には長けますが、高速クルージングはさほど得意ではないのです。単にクルージング性能でいえばセダンのほうが上手でしょう。
③ ブレーキ性能(止まる)
雪道の事故で一番多いのは追突です。北海道の雪道事故の25%を占めており、件数にして月当たり200件以上が報告されます。ブレーキは冬シーズンで一番気を遣うポイントといっても過言ではないでしょう。
もちろん、スピード超過や急ブレーキをしないことが先決ですが、停車距離という点に関しては軽量な車に乗ることをおすすめします。
軽いほうが止まりやすい
遠心力と同じ原理ですが、車重は慣性力を増大させます。慣性力という言葉に馴染みのない方は、電車が停車するときに感じる力、あるいはエレベーターが上昇するときに床から感じる力をイメージして下さい。
「慣性力の大きさ=ブレーキに必要な力」という解釈でほぼ間違いないので、重い車はそれだけブレーキに大きな力が要求されるのです。乾いた路面ならともかく、不安定な雪道では慣性力を御するのは困難といえます。これについてもJAFが興味深いテストを行っていました。
後半にブレーキテストが行われており、平坦路ではさほど差は感じられませんが、下り坂では車重の差が顕著に表れています。軽さの優位性がよくわかるかと思います。
タイトルは4WDとなっていますが、3分35秒から平坦路、4分40秒から下り坂のブレーキテストが始まるのでチェックしてみてください。
重い車ではより“丁寧な操作”を心がける
さて、雪道と車重について色々語ってきました。まとめとしては、“重い車で冬を越すときは、ペダルやハンドルを丁寧に操作することが大切”ということですね。月並みな言葉ではありますが。
ですが、SUVだからといって性能を過信する方が多いために、横転するSUVが一定数いるのではないかと僕は考えています。なので、本記事を読んでいるSUVオーナーさんがいらっしゃいましたら、くれぐれも丁寧な操作を心がけてくださいね。